【小説】シエンの通る道 5
もくもくとおいしい香りのする湯気があたりに立ち込める。
ジャーッと鍋の中で焼ける肉と野菜の音も、食欲をそそる。
そして、テーブルの上に並べられた料理の数々の横では…空になった皿がいくつも重ねられていた。
「はむっ!もぐもぐ、ごっくん。パクッハグッ!むぐむぐもぐ…っくん!!」
レンゲと皿が擦れあいカチャカチャと音を鳴らしながら、次々に料理が口へ運ばれていく。流し込むようにして消えていく料理と、それを夢中で平らげている姿を見て、リンメイもカンランも、目が点になっていた。
それもそのはず。
今、目の前で約10人前を平らげようとしているのは、見た目が12歳ほどの小さな少年だったからである。
…さて、ハンに行き倒れがいると聞いて、急いで村の入り口まで向かったカンランだったが、そこで大の字になってうつぶせに倒れていた姿をみて仰天した。
自分よりも背が小さく、華奢な体型の少年であることもそうだが、その寝顔がなんとも幸せそうだったからである。
聞けば先に発見した村人が、リンメイたちにハンが知らせに行ったことを確認した後、「いま休めるところを探しているから、待ってろよ、何か食わせてやるから」と言った。すると少年は「た…食べ物?わ~い…」と笑顔を見せて眠ってしまったらしい。